のんたん日記　１


１０．こまった、こまった、どーしましょう！

　　今日はクリスマスイブです。
　　昨年のあみちゃんは、「あみちゃんにも、サンタさん来る？」と口癖のように言っていました。家でも、保育所でも、「いい子にしないと、サンタさん来ないよ。」と毎日言われ続けたことが、よほど心配だったのでしょう。そのうちに、だんだん泣き顔できいてくるようになりました。さすがに、これではいけないと思い、おかあさんはあるときから、この言葉をいうのをやめました。
　　今年のあみちゃんは、「サンタさんが自分のところには来ない」なんて、思ってもみないようです。「クリスマスは、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれる日ではありません。」と、保育園でおしえてもらったせいでもあるのでしょう。
　　のんたんとあみちゃんがこの４月から通っているＲ保育園はキリスト教系なので、クリスマスは大切な行事です。クリスマスの四週間前から、「アドベント（降臨節）」という、クリスマスをみんなで待ちわびる行事が始まりました。
　　Ｒ保育園の玄関にも、天井から大きなアドベントクランツが吊り下げられました。これは、木の枝などで作った冠状の台の上に、四本の少し大きめのキャンドルを飾ったものです。そして、クリスマスの四週間前の日曜日から、毎週一本ずつ、キャンドルに灯をともしていくのです。四本全部が灯ると、クリスマスがくる、というわけです。この、四本めが灯るころになると、欧米の家庭ではクリスマスツリーを用意し、その下にプレゼントを飾っていくのだそうです。
　　クリスマスがなんのことか、まだわかっていないのんたんにとっては、クリスマスは意味がないのかもしれません。おかあさんはそう思っていました。 　ところが、のんたんはひと月くらい前から、「こまった、こまった、どーしましょう！」と、何度も、大きな声で歌うようになったのです。
「なんだろうね、これ。あみちゃん、これ、なんの歌？　保育園でならったの？」ときいても、あみちゃんにもわかりません。
　　でも、あとでわかったのですが、これはやっぱり保育園で覚えた歌だったのです。
「トントントン、やどやさん。どーか一晩、泊めてください。ここのお部屋はいっぱいです。こまった、こまった、どーしましょう。」 　　もう、わかりますよね。これはまぎれもなく、クリスマスのための讃美歌です。保育園内を自由に歩き回っているのんたんは、きっと、おおきい子どもたちのクラスで歌っているのを聞いて、あみちゃんよりも先に覚えてしまったのでしょう。それから少しして、あみちゃんも同じ歌を習ってきて家で歌ってくれたので、それがわかりました。
　　クリスマスの礼拝のための讃美歌は、全部で４つありました。「ハレルヤ」「ハイドン、ハイドン、ティリドン」など、のんたんは次々に覚えていき、家で披露してくれるようになりました。お歌の数がひとつ増えるごとに、クリスマスが近づいていきます。のんたんの讃美歌が、我が家にとっては、アドベントのキャンドルそのものでした。
　　そして１２月１８日になりました。この日、保育園では、ひとあし早くクリスマス礼拝が行われました。
　　あみちゃんをはじめとするひつじ組の子どもたちは、そろって白いケープで身を包み、おとうさん、おかあさんの待つ礼拝堂に入場してきました。はいるなり、おかあさんと目が合ってしまったあみちゃんは、笑顔いっぱいでおかあさんに手をふってくれました。いい度胸です。
　　そしてのんたんはというと…。やはり予想どおり、ケープを拒否したようです。ケープをつけないまま、いちばん最後に、ｍ先生に抱っこされての入場です。
　　おごそかな雰囲気のなかで子どもたちの讃美歌が続きます。一曲めは「ハレルヤ」です。そして、二曲めの「ハイドン、ハイドン、ティリドン」を子どもたちが歌い終わるやいなや、静まり返った礼拝堂で、のんたんの独唱が響き渡りました。
「ハイドン、ハイドン、ティリドン。ハイドン、ハイドン、ティリドン…」
　　思いがけないのんたんのソロに、みんなの顔から笑みがこぼれます。ちょっぴり緊張気味だった礼拝堂の空気が、ふんわりとあたたかくなったように、おかあさんは感じました。
　　礼拝堂に入ってくるなり、一生懸命手を振ってくれたあみちゃんと、「ボクも歌えるんだよ！」とみんなに披露してくれたのんたん。そのどちらもが、おかあさんにはいとおしくてなりませんでした。

　　家に帰ってから、のんたん、あみちゃん、おかあさんの三人でおふろにはいりました。狭い浴槽に三人ではいると、満員電車のようです。
　　あみちゃんが、讃美歌をもう一度うたってくれました。
「ぼくらはほしに、ついてきた。ひがしのくにの、はかせです…。」
　　そのときです。のんたんがいっしょに歌いだしたのです。
「きょう、おうまれのイェスさまに、さしあげようと、もってきた…。」
　　のんたんとあみちゃんの歌声は、ぴったりと揃っていました。のんたん、いっしょに歌えるようになったんだね。ふたりで歌ってくれた讃美歌が、おかあさんにはなによりのプレゼントになりました。
　　のんたんにとってのクリスマス。それは、やっぱりお歌でした。讃美歌をとおして、のんたんはからだいっぱいでクリスマスを感じていました。

　　今日はクリスマスイブです。今年のクリスマスは、のんたんも、あみちゃんも、おとうさんも、おかあさんも、本当の意味で、４人いっしょに迎えられたような気がする、おかあさんなのです。

（おわり）