あみちゃん日記 ３
２８．だいすきなあみちゃん 〜その３〜
２８．４ あみちゃんも （2002年 7月29日）
夏休みになりました。
といっても、おとうさんとおかあさんは仕事をしているので家でのんたんやあみちゃんといっしょに過ごすことができません。夏休みの間、朝８時半から夜７時まで、のんたんとあみちゃんはＲ学童保育クラブで過ごします。
おかあさんは、毎日、学童でのんたんとあみちゃんが食べるお弁当を作らなければなりません。毎日の家事が少しだけ増えるわけですが、安心して預かってもらえる場所があることのありがたさを思えば、お弁当作りはちっとも苦にはなりませんでした。
学童では、業者の宅配弁当の注文も受け付けています。
「毎日作るのはたいへんだろうから、たまにはお弁当を注文したら？」
とおとうさん。でも、そんなわけにはいきません。
お弁当は、一個４２０円もするのです。のんたんとあみちゃんの分を注文したら、ふたつで８４０円にもなってしまいます。それにひきかえ、おかあさんが会社のお昼に食べているお弁当は、なんと３５０円！
「親が食べる弁当よりも高いなんて、許せないわよ。ふたつ頼んだら、1０００円近くするのよ。一週間頼んだら４２００円だよ！」
ついつい、おかあさんのボルテージがあがります。
「そっか。そういえば、オレの弁当も４００円だ。」
つくづく安上がりにできている、おとうさんとおかあさんです（笑）。
そんなわけで、おかあさんはお弁当を毎日ふたつ作って、学童に通う子どもたちに持たせることにしました。
お弁当に入れる小さなおにぎりは、いつも４個用意します。のんたんとあみちゃんのお弁当箱に、2個ずつ入れるためです。
が、たまにごはんが少しだけあまると、おかあさんはおにぎりをもうひとつ余分に握ってしまいます。そして、朝、学童にでかける前に、おにぎりが好きなあみちゃんの朝ごはんがわりに食べさせていました。パンが大好きなのんたんは、いつもそしらぬ顔でパンを食べています。
ある日のことです。ごはんが少し大目だったので、おかあさんは小さなおにぎりをふたつ握ることができました。そして、ひとつをあみちゃんにわたし、もうひとつをのんたんに食べさせてみました。
朝はいつもパンばかり食べているのですから、おにぎりの朝ごはんというのは目新しく、のんたんにはよりおいしく感じられたのかもしれません。のんたんは、大きな口をあけて、そのおにぎりにかぶりつきました。そして、もぐもぐ…と口を動かして飲み込んだかと思うと、次の瞬間、こう言ったのです。
「あみちゃんも」
おかあさんは、あまりにびっくりして、のんたんの言ったことばの意味がすぐにはわかりませんでした。あわてて、カラになったのんたんの口に、またおにぎりを持っていったものの、のんたんのことばの意味がじわじわとわかってきて、胸がいっぱいになってきました。
「のんたん、おにぎりがおいしかったのね。おいしかったから、あみちゃんにも食べさせてって言いたかったのね？ ね？ そうなんでしょう？」
のんたんはなにも言わず、満足そうにおにぎりをほおばっています。
「のんたんが、『あみちゃんも！』って言ったよ！あみちゃん、聞いてたでしょ？」
興奮しているおかあさんを横目に、あみちゃんはおにぎりを食べながらテレビに見入っていて、
「うん。」
と、そっけない返事が返ってきただけでした。
けれどおかあさんには、なつかしい情景がありありと思い出されました。
あれは、あみちゃんがよちよち歩きの頃だったでしょうか。まだ、話せることばも少ない、小さな小さなあみちゃんが、なにかおいしいものを食べるたびに、必ず、
「のんたんも。」
と言っていたのです。
おいしいよ、のんたんにも食べさせて、という気持ちをこめて、あみちゃんは一日に何回も、「のんたんも。」ということばを口にしました。なにかをプレゼントしてもらったときもそうです。あみちゃんは必ず、
「のんたんも。のんたんのはある？」
と聞く子どもでした。
あみちゃんがなにを話しかけても、のんたんがそれに答えることはありません。生まれてからずっと、のんたんとあみちゃんはそんな双子でした。そんなものなのだ、とおかあさんは思っていました。
けれど、そうではなかったのだ、と、おかあさんはその日初めて気がつきました。いつも自分のそばにいるあみちゃんに、のんたんの方からなにかを言ったりしたりすることはないけれど、あみちゃんへの思いは、のんたんの心の中で、少しずつ育っていたのでしょう。
あみちゃんが、まだ２，３歳の頃にいつも口にしていたことばや思いを、今、のんたんが同じように、あみちゃんに向け始めているのです。のんたんの中に、確実に育っているものがあることを知り、おかあさんは胸が熱くなりました。
「このおにぎり、おいしいね。あみちゃんにも食べさせて。あみちゃんのはある？」
のんたんは、「あみちゃんも」という短いことばで、こんなふうに言いたかったのではないでしょうか。
おかあさんの問いかけても、のんたんはなにも答えません。
「そう、おにぎりおいしかったの。よかったねえ。だいじょうぶ。あみちゃんのもあるよ。あみちゃんも、のんたんのとなりで食べているのよ。」
おかあさんは、のんたんの耳元に近づき、ゆっくりと、そう言いました。
さわやかな夏の朝。夏休みは、まだ始まったばかりです。
（おわり）
「だいすきなあみちゃん」シリーズはこちらです。
のんたん日記 １２．だいすきなあみちゃん （2000年1月〜7月記）
のんたん日記２ ２８．だいすきなあみちゃん 〜その２〜 （2001年7月17日記）
ちいさかったあみちゃんの成長ぶりと、少しずつ広がっている「のんたんとあみちゃんの世界」をご覧ください。
２８．４ あみちゃんも （2002年 7月29日）
夏休みになりました。
といっても、おとうさんとおかあさんは仕事をしているので家でのんたんやあみちゃんといっしょに過ごすことができません。夏休みの間、朝８時半から夜７時まで、のんたんとあみちゃんはＲ学童保育クラブで過ごします。
おかあさんは、毎日、学童でのんたんとあみちゃんが食べるお弁当を作らなければなりません。毎日の家事が少しだけ増えるわけですが、安心して預かってもらえる場所があることのありがたさを思えば、お弁当作りはちっとも苦にはなりませんでした。
学童では、業者の宅配弁当の注文も受け付けています。
「毎日作るのはたいへんだろうから、たまにはお弁当を注文したら？」
とおとうさん。でも、そんなわけにはいきません。
お弁当は、一個４２０円もするのです。のんたんとあみちゃんの分を注文したら、ふたつで８４０円にもなってしまいます。それにひきかえ、おかあさんが会社のお昼に食べているお弁当は、なんと３５０円！
「親が食べる弁当よりも高いなんて、許せないわよ。ふたつ頼んだら、1０００円近くするのよ。一週間頼んだら４２００円だよ！」
ついつい、おかあさんのボルテージがあがります。
「そっか。そういえば、オレの弁当も４００円だ。」
つくづく安上がりにできている、おとうさんとおかあさんです（笑）。
そんなわけで、おかあさんはお弁当を毎日ふたつ作って、学童に通う子どもたちに持たせることにしました。
お弁当に入れる小さなおにぎりは、いつも４個用意します。のんたんとあみちゃんのお弁当箱に、2個ずつ入れるためです。
が、たまにごはんが少しだけあまると、おかあさんはおにぎりをもうひとつ余分に握ってしまいます。そして、朝、学童にでかける前に、おにぎりが好きなあみちゃんの朝ごはんがわりに食べさせていました。パンが大好きなのんたんは、いつもそしらぬ顔でパンを食べています。
ある日のことです。ごはんが少し大目だったので、おかあさんは小さなおにぎりをふたつ握ることができました。そして、ひとつをあみちゃんにわたし、もうひとつをのんたんに食べさせてみました。
朝はいつもパンばかり食べているのですから、おにぎりの朝ごはんというのは目新しく、のんたんにはよりおいしく感じられたのかもしれません。のんたんは、大きな口をあけて、そのおにぎりにかぶりつきました。そして、もぐもぐ…と口を動かして飲み込んだかと思うと、次の瞬間、こう言ったのです。
「あみちゃんも」
おかあさんは、あまりにびっくりして、のんたんの言ったことばの意味がすぐにはわかりませんでした。あわてて、カラになったのんたんの口に、またおにぎりを持っていったものの、のんたんのことばの意味がじわじわとわかってきて、胸がいっぱいになってきました。
「のんたん、おにぎりがおいしかったのね。おいしかったから、あみちゃんにも食べさせてって言いたかったのね？ ね？ そうなんでしょう？」
のんたんはなにも言わず、満足そうにおにぎりをほおばっています。
「のんたんが、『あみちゃんも！』って言ったよ！あみちゃん、聞いてたでしょ？」
興奮しているおかあさんを横目に、あみちゃんはおにぎりを食べながらテレビに見入っていて、
「うん。」
と、そっけない返事が返ってきただけでした。
けれどおかあさんには、なつかしい情景がありありと思い出されました。
あれは、あみちゃんがよちよち歩きの頃だったでしょうか。まだ、話せることばも少ない、小さな小さなあみちゃんが、なにかおいしいものを食べるたびに、必ず、
「のんたんも。」
と言っていたのです。
おいしいよ、のんたんにも食べさせて、という気持ちをこめて、あみちゃんは一日に何回も、「のんたんも。」ということばを口にしました。なにかをプレゼントしてもらったときもそうです。あみちゃんは必ず、
「のんたんも。のんたんのはある？」
と聞く子どもでした。
あみちゃんがなにを話しかけても、のんたんがそれに答えることはありません。生まれてからずっと、のんたんとあみちゃんはそんな双子でした。そんなものなのだ、とおかあさんは思っていました。
けれど、そうではなかったのだ、と、おかあさんはその日初めて気がつきました。いつも自分のそばにいるあみちゃんに、のんたんの方からなにかを言ったりしたりすることはないけれど、あみちゃんへの思いは、のんたんの心の中で、少しずつ育っていたのでしょう。
あみちゃんが、まだ２，３歳の頃にいつも口にしていたことばや思いを、今、のんたんが同じように、あみちゃんに向け始めているのです。のんたんの中に、確実に育っているものがあることを知り、おかあさんは胸が熱くなりました。
「このおにぎり、おいしいね。あみちゃんにも食べさせて。あみちゃんのはある？」
のんたんは、「あみちゃんも」という短いことばで、こんなふうに言いたかったのではないでしょうか。
おかあさんの問いかけても、のんたんはなにも答えません。
「そう、おにぎりおいしかったの。よかったねえ。だいじょうぶ。あみちゃんのもあるよ。あみちゃんも、のんたんのとなりで食べているのよ。」
おかあさんは、のんたんの耳元に近づき、ゆっくりと、そう言いました。
さわやかな夏の朝。夏休みは、まだ始まったばかりです。
（おわり）
「だいすきなあみちゃん」シリーズはこちらです。
のんたん日記 １２．だいすきなあみちゃん （2000年1月〜7月記）
のんたん日記２ ２８．だいすきなあみちゃん 〜その２〜 （2001年7月17日記）
ちいさかったあみちゃんの成長ぶりと、少しずつ広がっている「のんたんとあみちゃんの世界」をご覧ください。